2008年4月4日金曜日
歌の読み下し文について
たとえば、万葉集巻第十六の三七八六の原文と読み下し文を四つの文献から抜き出してみると、
○春去者 挿頭尓将為跡 我念之 櫻花者 散去流香聞 (1)(2)
はるさらはかさしにせむとわかおもひしさくらのはなはちりにけむかも (1)
春さらば挿頭にせむとわが思ひし桜の花は散りにけるかも (2)
春さらば挿頭にせむとわが思ひし櫻の花は散りにけるかも (3)
春さらばかざしにせむと我が思ひし桜の花は散りにけるかも (4)
(1)では春、去る、挿頭(かざし)、我、念う、櫻、花、散るの漢字もすべてひら仮名化されている。(2)と(3)では去る、我がひら仮名化され、念うが思うに変わっているなど、万葉集の読み下しの漢字仮名交り文は本によってみな違う。
<原文で表意の漢字はそのまま残し、表音の漢字(万葉仮名)はひら仮名にする>という方針で表記したら原文に忠実と言えるのではないか。そうすることで著者の恣意(漢字にするかひら仮名にするかのいい加減な判断)は避けられるだろう。
春去らば挿頭にせむと我念ひし櫻の花は散りにけるかも (私訳)
最後の一つ前、大友家持の歌、巻第二十の四五一五ではどうか。
○秋風乃 須恵布伎奈婢久 波疑能花 登毛尓加射左受 安比加和可礼牟 (2)
あきかぜのすゑふきなびくはぎのはなともにかざさずあひかわかれむ (4)
秋風のすゑ吹き靡く萩の花ともに挿頭さずあひか別れむ (2)
秋風のすゑ吹きなびく萩の花ともに挿頭さず相か別れむ (3)
秋風の末吹き靡く萩の花ともにかざさず相か別れむ (4)
大部ひら仮名が多くなったがきらいではない。
秋風のすゑふきなびくはぎの花ともにかざさずあひかわかれむ (私訳)
参考文献:
(1)京都大学附属図書館所蔵 重要文化財 『万葉集(尼崎本)』巻第十六
http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/ma9/image/ma9lhf/ma9lh0005.html
(2)中西進『万葉集 全訳注原文付』講談社
(3)佐佐木信綱『新訓万葉集 上下巻』岩波書店
(4)万葉集テキスト検索システム
http://infws00.inf.edu.yamaguchi-u.ac.jp/MANYOU/manyou_kensaku.html
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